20代の頃はアクセサリー販売の仕事をしていました。しかし年々、金属アレルギーがひどくなり、アクセサリーがつけられなくなってしまったんです。仕事は好きでしたが、やむを得ず職を離れることにしました。
もともと地図を見るのが好きで、知らない場所を見つけては車で訪れるのが趣味でした。そんなことばかりしていたので、次に働くならタクシーの仕事がいいな、と考えるようになったんです。日の丸交通には当時から日勤がありましたから、この会社なら無理なく働けると思い応募しました。採用の知らせが届いたのは、30歳になった2日後のこと。節目の年の誕生日プレゼントになりました。以来、20年以上タクシードライバーとして働いています。
私は東京の街を走るのが大好きです。東京は半年単位で変化していくし、時間によって見せる表情も違います。昼間は大勢の人で賑わう道が、日が暮れるにつれて哀愁を漂わせたりするんですよ。毎日新しい発見があるので、何年やっても飽きることがありません。
たとえば私が入社した当時、お台場はまだありませんでした。工事をしている最中で、近くを走ると砂埃で車が真っ黒になったものです。豊洲のあたりで作業員の方をお乗せして、お台場の現場までお連れしたことも何度もあります。今では高層マンションや商業施設が立ち並ぶきれいな街ですが、あの時の作業員の方々が作ったのだと思うと感慨深いものがあります。最近では豊洲市場ができましたし、来年には東京オリンピックも控えています。これらも東京は変わり続けると思うと、楽しみで仕方がありません。
さまざまなお客様との出会いがあるのも、この仕事の魅力です。私は観光タクシーの業務も担当しているのですが、初めて東京に来られたご夫婦をご案内したところ、とても満足してくださり、翌年も指名していただいたことがありました。1年経っても覚えていてくださったのが嬉しくて、はりきって前年とは異なる場所をご案内させていただきました。
それから空港で慌ただしく乗車されたお客様も印象的でしたね。パスポートを家に忘れてしまったので取りに帰りたいとのことでしたが、フライトの時間が迫っている状況。スピード違反はできませんから、最短ルートを探すなどしてできる範囲で頑張りました。間に合うかどうかの瀬戸際でハラハラしましたが、なんとか間に合ってホッとしました。楽しい時間を提供できた時やお役に立てた時に、お客様の笑顔を見るとやりがいを感じます。
東京には有名な観光地がたくさんありますが、私はそれより「ストリート」の良さを広めたいと思っています。観光地はもちろん素晴らしいのですが、それらは既にご存知の方も多いですよね。下町、山の手、路地裏、オフィス街など、あまり取り上げられていないエリアにもそれぞれ魅力がありますし、その時しか見られない景色がたくさんあります。
私はタクシードライバーとして実際に走りながら街を見てきたので、本やインターネットには載っていない生(なま)の魅力を伝えたい。そのためにこれからも続けていこうと思っています。